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神戸地方裁判所 昭和39年(ワ)1406号 判決

原告 大阪北信用組合

右代表者代表理事 白井種雄

右訴訟代理人弁護士 中坊公平

右復代理人弁護士 谷沢忠彦

被告 岡田由彦

被告 有限会社ステッキオカダ

右代表者代表取締役 岡田由彦

右被告両名訴訟代理人弁護士 清木尚芳

主文

被告両名は原告に対し各自金六九万八、五八〇円および、これに対する昭和三九年六月一日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告両名の各自負担とする。

この判決は原告に於て被告両名に対し仮に執行ができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求の原因並びに抗弁への答弁として次のとおり述べた。

一、被告は訴外野村司郎に対し左記約束手形二通を振出した。

(一)金額   金四四万一、二八〇円

満期   昭和三九年五月一〇日

支払地  神戸市

支払場所 株式会社第一銀行三宮支店

振出地  神戸市

振出日  昭和三九年三月一〇日

(二)金額   金二五万七、三〇〇円

満期   昭和三九年五月三一日

振出日  昭和三九年三月一〇日

その他の記載事項(一)の手形に同じ。

原告は右の野村司郎から右手形の裏書譲渡を受け、現にその所持人である。

よって原告は右手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、拒絶された。

二、被告有限会社ステッキオカダは被告岡田由彦が不渡りを出すと同時に同人の営業を譲受け昭和三九年五月二八日設立された有限会社なるところその本社と営業場所は被告岡田由彦が営業していた生田区三宮町二丁目一番地にあり、営業も同じ紳士洋品の販売を業とし商号も同じ「ステッキオカダ」という商号をそのまま使用している。本件手形は被告岡田由彦が営業していた当時の営業によって生じた債務であり、有限会社ステッキオカダは右の如く、商法二六条の営業を譲受け商号を続用するものであるから被告両名は不真正連帯債務を負担する関係にあるものとして各自その支払に任ずる責任がある。

よって、被告両名に対し右手形金合計六九万八、五八〇円と、これに対する満期後であり有限会社ステッキオカダ設立後である昭和三九年六月一日から完済まで法定の年六分の割合による利息の支払を求める。

三、被告ら主張の、原告が本件手形取得当時悪意であったということは認めない。

被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め答弁として被告岡田由彦が原告主張の手形二通を振出したことは認める。但しこれは訴外春木美弥子が同被告に自分は茨木農業協同組合の理事長と知合であって同農協へ二五万円の定期預金をすれば六、七〇万円の融資を得られるというので昭和三九年一月同人に右の定期預金として二五万円を渡し更に同年二月初め割引による融資を受けるため本件手形二通を預けたところ、同人は定期預金もせず、手形割引申入れもしなかったもの、即ち、同被告はこの手形を詐取されたのである。而して原告がこの手形を受取った相手の野村司郎は原告がこの手形を受取った日より十日程后の昭和三九年三月二〇日頃倒産していること、原告は本件手形の入手に当り被告岡田由彦に何らの照会、確認をしていないこと、被告岡田が従前株式会社第一銀行三宮支店で決済していた手形小切手は五万円前後か十万円迄であって原告は右の取引銀行に取引の有無、決済見込を問合せたであらうから、同被告が本件のごとき莫大な金額の決済能力のないことは十分了知していた筈であること等よりして原告は本件手形が対価なくして流通に置かれたものなることを、知って取得した悪意の手形取得者である。又被告有限会社ステッキオカダは同岡田由彦から営業を譲受けたものではなく別個に昭和三九年六月、営業を開始したものであるから商法二六条の適用はないと述べた。

立証≪省略≫

理由

一、被告岡田由彦が昭和三九年三月一〇日、原告主張の本件約束手形二通を振出したことは当事者間に争なく、その手形の受取人が訴外野村司郎であること、原告がこの野村司郎から本件手形を拒絶証書作成の義務を免除されて裏書譲渡を受けて所持人となり、支払期日に呈示して不渡となったことは被告両名に於て明らかに争はないので、これを自白したものと看做す。

二、≪証拠省略≫によれば、被告岡田由彦は従来よりステッキオカダという商号を用い個人として舶来の衣類、ネクタイ、置物等の販売を営んでいたものなるところ昭和三九年の初、店員として使用していた訴外春木基恵の母春木美弥子が、茨木農業協同組合の理事を知っていてそこへ二五万円定期預金をすれば同理事の名によって六〇万から七五万円程の融資を得られるから世話をする、ということであったため被告岡田は、同年二月一五日小切手で二五万円を渡し定期預金をすることを依頼し、その一週間位後本件約束手形二通を渡し、これによって手形割引を受けるよう依頼したこと、この春木美弥子がどういう経緯で手形を野村司郎なるものに渡したか明瞭でないが茨木農協へは何の交渉もせず手形を野村司郎に渡し、野村はこれを原告方に持込み、これは野村の営業である店舗改装の代金として受取った通常の手形であるといって原告から日歩四銭の利息を差引いて割引を受けたこと、原告と野村とはかねてから取引がありこの手形につき支払場所である第一銀行三宮支店に照会したところ、これ位の金額なら大丈夫だろうといわれたため、割引に応じたこと、然し被告岡田はこの手形によって一銭の融資も得られることなく、結局巧みに欺罔されるか利用されて手形をとられ野村が割引を受けたに過ぎないこと、このため被告岡田は野村を告訴し野村は警察の取調を受け、結局野村は被告岡田に申しわけないといい五、〇〇〇円だけ渡したことがあるが、その后行方不明であること、被告岡田は本件手形が不渡となった後の昭和三九年六月従前個人として営業していた同じ場所に、同じ店を用い資本金二〇万円で有限会社ステッキオカダを設立し自ら代表者取締役となり有限会社ステッキオカダと看板を書換え、多少取扱商品や取引先に変動はあったが大体従前と同じ商売を営んでいること、の各事実が認められ以上の認定に反する≪証拠省略≫は措信しない。

三、以上のごとく認められるのであって原告が本件手形を取得するに当り債務者を害する悪意ありしものと認められる証拠はないので被告岡田には気の毒な点もあるが手形を振出したものとして責任は免れない。

四、次に、被告岡田由彦と同有限会社ステッキオカダとの関係について案ずるに営業が個人から法人に営業譲渡されたという明確な意思表示はないが被告本人岡田由彦尋問の結果によれば前記認定事実の外、約二〇〇万の在庫商品はそのまま個人から法人に引継がれたこと、当事被告岡田は約三〇〇万円の負債があって困っていたことが認められ、以上の事実からすればこれは原告主張のごとく商法二六条の営業譲渡があって、商号を続用しているものとみるのを相当とする。されば有限会社ステッキオカダは岡田由彦が営業のために負ったと認められる本件手形債務を商法二六条により重畳的に債務引受をしたものというべくこの関係は不真正連帯債務として原告に対し各自弁済の責任があるというのを相当とする。よって原告の請求は理由があるからこれを認容し、手形金合計六九万八、五八〇円とこれに対する満期後である昭和三九年六月一日から完済に至るまで年六分の割合の法定利息の支払を命じ訴訟費用等に民訴法八九条、一九六条二項本文を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 菊地博)

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